• HOME
  • その他
  • 「魔女の宅急便」豆知識~意外なシーン・エピソードに潜むメッセージ

「魔女の宅急便」豆知識~意外なシーン・エピソードに潜むメッセージ

その他

始めに

ジブリ映画の中でも特にポピュラーな作品の一つである「魔女の宅急便」

一見子ども向けのかわいらしい映画ですが、大人になってから見ても心に響くメッセージが隠されていたりしてとても味わい深い作品です。

本記事では「魔女の宅急便」の何気ないシーンに込められたメッセージを紹介していきます。

ジジは喋らなくなったのではなく、もともと喋っていなかった

魔女の修行に旅立ったキキにとって、ジジは心の支えとなってくれる相棒と言える存在。

雨の日も風の日も苦楽を共に分かち合ってきました。

そのジジが喋らなくなってしまった原因を、皆さんはどんな風に考えたことがありますか?

私は単に、スランプで魔法が使えなくなったからだと考えていました。

しかし、宮崎駿監督の答えは、私の予想と大きく異なるものでした。

「ジジの声はもともとキキ自身の声で、キキが成長したためジジの声が必要なくなった。変わったのはジジではなくキキ。」

初めからジジは話していなかったのですね。

始めてそれを知った時は驚きましたが、冷静に考えたら旅立ったばかりのキキって、昨日まではお母さんの温かいご飯を食べて、ふかふかのベッドで眠りにつく、普通の子供として暮らしていたんですよね。

友達だって、たくさんいたはずです。

それがたった一人、知らない街で身を立てなくてはいけないのですから、心の中は不安と寂しさでいっぱいのはず。

心のよりどころとして、話し相手を求めてジジに人格を投影したのかもしれませんね。

だとすれば、コリコの街に慣れて、人とのつながりも育まれてきた段階でジジが喋らなくなるのも納得です。

きっと精神的な自立が始まり、ジジに投影した人格に頼らなくてもやっていけるようになったということですね。

少し寂しい話ですが、それでもやはり、キキとジジは意思疎通していたんだろうなと思います。

なぜなら、森に落としてしまったお届け物のぬいぐるみの代わりになるようにキキから頼まれたジジは、焦りながらもしっかりぬいぐるみのフリをするからです。

それに、ジジと言葉でやり取りできなくなった後も、二人(一人と一匹)の絆は変わらないのでしょう。

様々な年代の女性たちに込められた意味

この映画では折に触れて、キキと様々と年代の女性との交流が描かれています。

特に目立つのはパン屋のオソノさん、絵描きの女の子ウルスラ、ニシンのパイの配達をお願いしたお婆さんではないでしょうか。

オソノさんは優しく、ウルスラは頼りになる姉貴分。

ニシンのパイのおばあちゃんはとてもやさしい、本当のおばあちゃんのような存在。

実はこれらの登場人物が、キキの未来を暗示しているといわれています。

キキはこれから大人への階段を上り始める、13歳の少女期。

絵描きのウルスラは、19歳の青年期。試行錯誤しながら自分の道を見出しているという点で、自分なりの考え方を確立しつつあるという点でキキより少し先に言っているキャラクターと言えるでしょう。

ちなみに筆者にとってあこがれの女性像は、このウルスラだったりします。

オソノさんは26歳。結婚して家庭を持ち、一人の女性から母親になる過渡期にいます。自分と旦那さんのことだけではなく、新しい命に無償の愛を注ぐステージに移行しつつあります。

ニシンのパイのお婆さんは子育ても終え、年頃の孫までいて、穏やかな余生を送っている熟年期。

これらの人物はキキがこれから歩むであろう一人の女性としての人生を表していると言われています。

確かに2時間に満たない映画で一人の少女の一生を描き切ろうとすると、どうしても無理が生じますが、このように様々な年代の女性が登場することで、「キキもこんなふうに成長していくのかなあ」と、想像を掻き立てられますね。

それにしても、オソノさんが26歳というのが信じられません。

出産前の20代あの肝っ玉お母さんぶりは、どのように培われてきたのでしょうか。

「わたし、このパイ嫌いなのよね」という言葉に込められた宮崎駿監督の仕事観

おばあさんがお孫さんに作ったニシンのパイをキキが届けた際の、お孫さんのセリフです。

この一言、不思議とインパクトが強いですよね。

魔女の宅急便の言葉の中でも、特に記憶に残るセリフではないでしょうか。

皆さんは聞いた時、どう思いましたか?

子供の頃の私は、シンプルに「ひどいな」と思っていました。

しかし大人になってからは、直接おばあちゃんに言いづらいこの子の気遣いも、本当に好きなんだと思って善意から作ってくれているおばあさんの真心も感じ、とても切なく感じるようになりました。

宮崎駿監督は著書「出発点―1979~1996」で、このシーンについて以下のように語っています。

「宅配便を受け取った時に、いちいち感謝しない」

「仕事とはいちいち感謝されるようなものではなく、むしろ感謝される事の方が珍しくありがたいものである」

こちらのシーンには、宮崎駿監督の仕事観が込められていたのですね。

確かにこのシーンは大雨という天気の演出も相まって、世間の厳しさを思い知ってやるせない気持ちになるキキの姿が強調されています。

このような、何となくもやっとする出来事がキキのことをさらに成長させてくれたのでしょうね

最後に

魔女の宅急便は子供向けの分かりやすい映画という印象を与えがちですが、心の目を凝らすと意外なところに深いメッセージが込められています。

「目にうつる全てのことはメッセージ」

このように背景まで細かく思いを込めて描写されているからこそ、ジブリ映画は世界に愛され続けているのでしょう。

外出が憚られる昨今ですから、休日はのんびりジブリ映画を鑑賞してみてはいかがでしょうか?

鈴音

作家。東京都町田市生まれ。早稲田大学教育学部出身。 広告代理店営業職や携帯キャリア会社を経て、執筆業で独立。 ビジネス、文化、タレント等の取材記事執筆のほか...

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧